ルツ物語(パート1)
The Story of Ruth—Part 1
February 23, 2026
ピーター・アムステルダム
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ルツ記は、旧約聖書の歴史書の1つで、エステル記と共に、聖書で女性の名がつけられた2つの書の1つです。あるモアブ人女性が、イスラエルの偉大な王であるダビデ王の曽祖母になるまでの物語を、4章にわたって記しています。
この物語は、まず次のように始まります。
さばきづかさ[士師]が世を治めているころ、国に飢きんがあったので、ひとりの人がその妻とふたりの男の子を連れてユダのベツレヘムを去り、モアブの地へ行ってそこに滞在した。その人の名はエリメレク、妻の名はナオミ、ふたりの男の子の名はマロンとキリオンといい、ユダのベツレヘムのエフラタびとであった。彼らはモアブの地へ行って、そこにおった …(ルツ1:1–2)。
士師時代(紀元前1200~1020年)のある時期、ベツレヘムにいたイスラエル人であるエリメレクとナオミの一家が、近隣のモアブの地に移住しました。一時的にモアブに滞在することで飢饉を乗り切り、飢饉が収まったら故郷に戻ろうというわけです。モアブへの移住後しばらくすると、エリメレクが亡くなりました。ナオミと2人の息子はモアブに残り、息子たちはそれぞれモアブ人女性をめとりました。10年ほど暮らした頃、息子たちが死んで、彼らのモアブ人妻オルパとルツはやもめとなり、あとに残されました。ナオミは、夫と息子たちに先立たれたのです(ルツ1:3–5)。
その時、ナオミはモアブの地で、主がその民を顧みて、すでに食物をお与えになっていることを聞いたので、その嫁と共に立って、モアブの地からふるさとへ帰ろうとした。そこで彼女は今いる所を出立し、ユダの地へ帰ろうと、ふたりの嫁を連れて道に進んだ(ルツ1:6–7)。
故郷での飢饉が収まってきたことを耳にしたナオミは、ユダの地に帰ることにしたのです。その途上で、おそらく自分が外国に移住して、その結果、異国の地でほとんど何もない状態になったことを回想したのでしょう。昔自分がしたように、これから異国の地に入ろうとしている2人の嫁のことを考えました。
そこで、ナオミは2人の嫁にこう言いました。「あなたがたは、それぞれ自分の母の家に帰って行きなさい。あなたがたが、死んだふたりの子とわたしに親切をつくしたように、どうぞ、主があなたがたに、いつくしみを賜わりますよう」(ルツ1:8)。ナオミは自らを犠牲にして、2人の嫁に、自分たちと同じ民族の中から新しい夫を見つけられるよう、モアブにある自分たちの母親の家に帰るよう言ったのです。これは、ナオミが嫁たちのために祈った最初の祝福の祈りでした。
そして、2つ目の祝福の祈りが、これです。「どうぞ、主があなたがたに夫を与え、夫の家で、それぞれ身の落ち着き所を得させられるように」(ルツ1:9)。ナオミは、彼女らが嫁として義理の母に対して負うあらゆる責任から2人を解放していたのです。この祝福の言葉を述べた後、ナオミが口づけをすると、2人とも声を上げて泣きました。
[嫁たちは]ナオミに言った、「いいえ、わたしたちは一緒にあなたの民のところへ帰ります。」 しかしナオミは言った、「娘たちよ、帰って行きなさい。どうして、わたしと一緒に行こうというのですか。あなたがたの夫となる子がまだわたしの胎内にいると思うのですか。娘たちよ、帰って行きなさい。わたしは年をとっているので、夫をもつことはできません。たとい、わたしが今夜、夫をもち、また子を産む望みがあるとしても、そのためにあなたがたは、子どもの成長するまで待っているつもりなのですか。あなたがたは、そのために夫をもたずにいるつもりなのですか。娘たちよ、それはいけません。主の手がわたしに臨み、わたしを責められたことで、あなたがたのために、わたしは非常に心を痛めているのです」(ルツ1:10–13)。
嫁たちは、忠義の心から、姑と一緒に残ると言い、外国人となってベツレヘムに移住することを誓ったのです。しかし、ナオミは、現実的に物事を考えていました。自分は子どもを産むには年を取りすぎているし、たとえまだ望みがあって、男の子を産めたとしても、その子たちが大きくなって結婚できるまで、2人は待てるだろうかと。
オプラはモアブに戻って再婚することにしましたが(ルツ1:14–15)、ルツはナオミといっしょにいることを選びました。そこで、ナオミは、ルツもモアブに帰るよう説得を試みました。
しかしルツは言った、「あなたを捨て、あなたを離れて帰ることをわたしに勧めないでください。わたしはあなたの行かれる所へ行き、またあなたの宿られる所に宿ります。あなたの民はわたしの民、あなたの神はわたしの神です。あなたの死なれる所でわたしも死んで、そのかたわらに葬られます。もし死に別れでなく、わたしがあなたと別れるならば、主よ、どうぞわたしをいくえにも罰してください」(ルツ1:16–17)。
ルツはナオミと一緒にいるために、自分の文化と言語、家族、そして将来の家族の可能性までも放棄することを決意したのです。この時点から、彼女は永久にナオミの民の一員になると言います。「ナオミはルツが自分と一緒に行こうと、固く決心しているのを見たので、そのうえ言うことをやめた」(ルツ1:18)。
ルツの決意を見て、ナオミは彼女が一緒にベツレヘムへ行くことを承諾しました。物語は次に、彼らがベツレヘムに到着したときの様子に変わります。
彼らがベツレヘムに着いたとき、町はこぞって彼らのために騒ぎたち、女たちは言った、「これはナオミですか。」 ナオミは彼らに言った、「わたしをナオミ(楽しみ)と呼ばずに、マラ(苦しみ)と呼んでください。なぜなら全能者がわたしをひどく苦しめられたからです。わたしは出て行くときは豊かでありましたが、主はわたしをから手で帰されました。主がわたしを悩まし、全能者がわたしに災をくだされたのに、どうしてわたしをナオミと呼ぶのですか」 (ルツ1:19–22)。
彼女らがどれだけの時間をかけて、どれだけの距離を旅したのかは、分かりませんが、その経路次第で、72~144キロの旅路だったことでしょう。私たちに分かっているのは、2人がこの旅をしたこと、そして、到着した時、町中の人に知られたことです。ナオミと夫がベツレヘムを離れてから10年経った今、ナオミだけ、モアブ人嫁と一緒に戻ってきました。ナオミは、ベツレヘムに戻った先の見通しに絶望していました。彼女からすれば、自分は全能者にひどく苦しめられたと思えたし、神はなぜ自分にこんな苦悩を味わわせたのかという疑問があったのです。
しかし、物語はそこで終わりではありません。
さてナオミには、夫エリメレクの一族で、非常に裕福なひとりの親戚があって、その名をボアズといった。モアブの女ルツはナオミに言った、「どうぞ、わたしを畑に行かせてください。だれか親切な人が見当るならば、わたしはその方のあとについて落ち穂を拾います。」 ナオミが彼女に「娘よ、行きなさい」と言った …」(ルツ2:1–2)。
2人がベツレヘムに着いたのは、大麦の刈り入れが始まった頃で、それは3月下旬から4月初旬のあたりです。レビ記では、農作物の収穫の際、その一部を貧しい人々のために残すことが命じられています(レビ19:9–10)。ルツはナオミに、ベツレヘムにある畑に行って、落ち穂拾いをさせてくれる人がいたら、そうすればいいと言いました。「ルツは行って、刈る人たちのあとに従い、畑で落ち穂を拾ったが、彼女ははからずもエリメレクの一族であるボアズの畑の部分にきた」(ルツ2:3)。
ボアズはベツレヘムの有力者で、エリメレクと同じ一族の人でした。「立派な人」(ルツ2:1 英語ESV訳)と呼ばれています。自分の労働者たちや、畑で落ち穂を拾う人たちのことを知っていたので、ルツを見て、新しい人が来たと分かったのでしょう。
ボアズは刈る人たちを監督しているしもべに言った、「これはだれの娘ですか。」 刈る人たちを監督しているしもべは答えた、「あれはモアブの女で、モアブの地からナオミと一緒に帰ってきたのですが、彼女は『どうぞ、わたしに、刈る人たちのあとについて、束のあいだで、落ち穂を拾い集めさせてください』と言いました」(ルツ2:4–7)。
監督者からいい報告を受けたボアズは、直接ルツと話をしました。
ボアズはルツに言った、「娘よ、お聞きなさい。ほかの畑に穂を拾いに行ってはいけません。またここを去ってはなりません。わたしのところで働く女たちを離れないで、ここにいなさい。人々が刈りとっている畑に目をとめて、そのあとについて行きなさい。わたしは若者たちに命じて、あなたのじゃまをしないようにと、言っておいたではありませんか。あなたがかわく時には水がめのところへ行って、若者たちのくんだのを飲みなさい」(ルツ2:8–9)。
「(私の)娘よ」と呼びかけたのは、彼女がそれだけ自分よりも若かったからでしょう。また、ボアズのところで働く女たちのそばで落ち穂を拾っていいのであり、今は自分の保護下にあるのだということを表しているのかもしれません。
彼女は地に伏して拝し、彼に言った、「どうしてあなたは、わたしのような外国人を顧みて、親切にしてくださるのですか。」 ボアズは答えて彼女に言った、「あなたの夫が死んでこのかた、あなたがしゅうとめにつくしたこと、また自分の父母と生れた国を離れて、かつて知らなかった民のところにきたことは皆わたしに聞えました。どうぞ、主があなたのしたことに報いられるように。どうぞ、イスラエルの神、主、すなわちあなたがその翼の下に身を寄せようとしてきた主からじゅうぶんの報いを得られるように」(ルツ2:10–12)。
ルツはボアズの優しい言葉にびっくりして、モアブ人である自分に、どうしてそれほど親切にしてくれるのかと尋ねました。するとボアズは、彼女が何を手放してこの地に来たかを知っていると説明し、神が彼女の犠牲に報いてくださるよう祈りました。ルツは、ボアズが言ってくれたことや、外国人である自分への接し方に、深く心を打たれました。「彼女は言った、『わが主よ、まことにありがとうございます。わたしはあなたのはしためのひとりにも及ばないのに、あなたはこんなにわたしを慰め、はしためにねんごろに語られました』」(ルツ2:13)。
働いている人たちが食事をする時間になると、ボアズは、一緒に座るようルツを誘って、パンを勧めました。そして、おそらく固いパンを柔らかくするためのソースのようなものだと思われますが、ワインビネガーにパンを浸すよう言いました。「彼女が刈る人々のかたわらにすわったので、ボアズは焼麦を彼女に与えた。彼女は飽きるほど食べて残した(ルツ2:14)。ルツは食べ切れなかったので、残りをナオミにあげるため、家に持ち帰りました。
そして彼女がまた穂を拾おうと立ちあがったとき、ボアズは若者たちに命じて言った、「彼女には束の間でも穂を拾わせなさい。とがめてはならない。また彼女のために束からわざと抜き落しておいて拾わせなさい。しかってはならない」(ルツ2:15–16)。
ルツがまた穂を拾いに行くと、ボアズは刈る人たちに、積極的に彼女を助けるように言いました。また、彼女を辱めたり、恥ずかしい気持ちにさせたり、惨めな思いをさせたりしないようにと指示しました。そしてルツは、夕暮れ時まで休まず働き続け、集めた穂を打って脱穀しました。その日の作業の結果は、大麦1エパ(約22リットル)となりましたが、これは、ルツとナオミが数週間食べ続けられる量です(ルツ2:17–18)。
しゅうとめは彼女に言った、「あなたは、きょう、どこで穂を拾いましたか。どこで働きましたか。あなたをそのように顧みてくださったかたに、どうか祝福があるように。」 そこで彼女は自分がだれの所で働いたかを、しゅうとめに告げて、「わたしが、きょう働いたのはボアズという名の人の所です」と言った。ナオミは嫁に言った、「生きている者をも、死んだ者をも、顧みて、いつくしみを賜わる主が、どうぞその人を祝福されますように。」 ナオミはまた彼女に言った、「その人はわたしたちの縁者で、最も近い親戚[買い戻しの権利のある親類(新改訳2017)、私たちの家を絶やさないようにする責任のある者(聖書協会共同訳)]のひとりです」 (ルツ2:19–20)。
ナオミは、ルツがどうやってそんなにも多くの穂を拾えたのか、詳しく知りたがりました。ルツが詳しく説明し、ボアズのことも伝えると、ナオミは慈しみ深い主を賛美しました。ナオミはそれまで、主がもはや自分を気にかけておられないように感じていたのですが、今は、ボアズの優しさを通して、神が彼女やルツに慈しみを示されたことに気づいたのです。
ボアズは、彼女らにとって、買い戻しの権利のある親類の1人です。買い戻しの権利のある親類とは、売りに出された(あるいは、売りに出されそうな)土地を買い戻して、それが一家の手から失われることを防ぐ責任を持つ近親者のことです(参照: レビ25:25; 申命25:5–10)。時間が経つにつれ、その人は貧しい親族の面倒を見る責任も負うべきであると考えられるようになりました。
ナオミはさらに、ボアズのところで働く者たちと一緒にいるのはいいことだとルツに語りました。そこの若い女性たちと共に働けば安心だと。「娘よ、その人のところで働く女たちと一緒に出かけるのはけっこうです。そうすればほかの畑で人にいじめられるのを免れるでしょう」(ルツ2:21–23)。そこでルツは、大麦と小麦の収穫が終わるまで、そこで落ち穂拾いを続けました。それは、およそ3ヶ月の間です。
初版は2022年10月 2026年2月改訂・再版 朗読:ルーベン・ルチェフスキー