トム・カーリンに起こったクリスマスの奇跡

11月 30, 2012

Tom Carlin’s Christmas Miracle
November 30, 2012

トム・カーリン

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私にクリスマスの奇跡が起こったのは、もう何年も昔、ヴァージニア州リッチモンドでのことでした。そこで私は8年ほどサンタクロース役をしていたのです。実を言えば、あの奇跡が起こった年には、アメリカのサンタ、ベスト10入りで受賞までしました。

デパートの中でサンタ用の立派な椅子に私が座っていると、子供が列を作って並び、自動的に写真が撮影されます。写真を買っても買わなくても、子供たちは帰る際に住所と名前を置いていくことになっていました。

クリスマスまであと1週間ほどのある雪の日の午後、ほぼ吹雪といえる天候のため、その日の仕事は暇でした。すると、薄汚れた顔をした男の子が私の前に現れたのです。みじめなほどのぼろを着て、運動靴からはつま先が覗いています。男の子は、力のない、しかし切羽詰まった声で言いました。「サンタクロースさん、これから妹を連れてくるけど、妹には何も約束しないで。もらえるはずなんてないんだから。家にはお金がないんだよ。」

私はうなずきました。

男の子はどこかへ行き、数分して妹を連れて戻ってきました。顔が汚れておらず、服がそんなに惨めでなければ、かわいいブロンドの天使のように見えたはずです。私はその子を抱き上げて膝の上に乗せ、カメラマンが写真を撮りました。私はとびっきりの優しい声で、「何がほしいんだい?」とたずねました。

女の子は立て続けに、ありとあらゆる物の名前をまくしたてました。何も持っていない時には、何でもほしくなるものです。さて、偶然にも、そのとき、店のマネージャーが来て、サンタの椅子の後ろに立ち、一部始終を聞いていたのでした。

女の子が私のひざから滑り降りると、係員がいつものように名前と住所を書き留めました。それから女の子はお兄さんと手をつなぎ、二人は急ぎ足で吹雪の中へ出て行ったのでした。

この話をこっそり聞いていたマネージャーは、あの兄弟の哀れな状況を知って、涙ぐんでいました。そして、すぐにデパート中にその話を広めたのです。誰もがその思いに共感し、クリスマスイブまでには女の子の願い事リストにあった物が全部そろいました。すべて、店の従業員からの寄付です。

プレゼントを袋に詰めながらも、私は自分の目が信じられませんでした。当然、サンタには、気品ある夜会服と透き通ったストールをまとい、ピンクのバレーシューズを履いた雪の王女様がいます。彼女も、おもちゃと服のスペシャル・デリバリーに同伴したがりました。閉店は5時半。外は雪で、暗くなりかけています。私たちはタクシーを拾うと、写真を撮った時にもらった住所を運転手に渡しました。

目的地まで着くと、そこはリッチモンドでも最も貧しい区域だとわかりました。そのひどさといったら、スラム街以上です。私たちはいっぱいの荷物を抱えながら何とかタクシーを降りました。嵐でさえも、腐りかけたゴミや、悪くなったゆでキャベツの悪臭を吹き飛ばすことはできませんでした。

運転手が言いました。「旦那、あんたはサンタかもしらんが、俺はこんな時間にこの界隈で人を待ってるつもりはないよ。それがサンタさんだってごめんだ。待たんからね!」

「わかった。この女の子に会いに行きたいんだ。」 私はだんだんと不安になってきました。「どこかに電話があると思うんだが。」

この頃には、あたりは真っ暗で、大雪になってきました。私たちはおんぼろの掘建て小屋の階段を上り、ドアをノックしました。返事はありません。もう一度、そしてまたもう一度、ノックしました。家はとても古くて、片方に少し傾いています。窓も二つ、壊れていました。もう一度、ドアをノックしました。

とうとうドアが開きました。中で薄暗い灯を背に輪郭だけが見えたのは、ぼさぼさの髪の毛でみすぼらしい格好をした背の低い女性でした。彼女は怒鳴るように言いました。「何か、用かい?」

クリスマスイブに色とりどりの箱を幾つも抱えたサンタクロースと雪の王女様が戸口に現れたなら、それは大ごとですが、彼女は表情も変えませんでした。(女の子の名前を覚えていないので、便宜上、ここではメアリー・ルー・ヒルと呼びましょう。) 「ヒルさんのお宅ですか?」

「違うね! あいつらは追い出したよ。家賃を払わなかったからね。」 彼女はぶつぶつ言って、私たちの目の前でドアをバタンと閉じました。

もうかなりの吹雪で、しかも、あたりは暗くなっています。どうすればいいのでしょう? かわいそうな雪の王女様の足はずぶ濡れで、薄いストールしか身に着けていなかったので、凍え死ぬ寸前です。私はサンタの服を着ていたので、彼女にかけてあげられる外套などは持ちあわせていません。何しろ、この天候でずっと外にいる予定はなかったのですから。

その界隈には街灯もありませんでした。私は不安混じりに暗い通りをじっと見つめました。遠くの方に灯が見えます。吹き付ける雪に向かって体を曲げながら、灯に向かってとぼとぼと歩きました。すると突然、闇の中から一人の女性が現れました。私はすぐさまその人に、ヒルさんの家を知らないか、たずねました。

「知ってるわけないでしょう?」 彼女はきつく言い返し、また闇の中に消えて行きます。私たちは灯に向かって歩き続けました。突然、誰かが私の腕を引きます。さっきの女の人でした。「ごめんね。その家族、知ってるわ。私もヒルというの。旦那の親戚じゃないけどね。そこの父親は酒飲みで‥まあ、幸せな家庭じゃないってことよ。」

私たちは寒さの中、少しの間立ち話をしました。「私、すぐそこに住んでいるの。暖まりに来ない? 旦那を呼んでくるから。たぶんあの人たちがどこに引っ越したか、わかると思う。」

彼女の小さな家に入ってみると、意外なことに中は塵一つなく清潔でした。彼女は夫に電話をし、私たちが暖を取って待っている間、ホットチョコレートを作ってくれました。ついに彼女の夫が帰ってきましたが、メアリー・ルーの家族の居所については何も知りませんでした。

私は「通りの向こうにあるのは何の灯ですか?」とたずねてみました。

「カフェバーだよ。そこに行けば何かわかるかも知れない。バーテンダーってのは何でも知っているからね。」

この夫婦も加わって、私たちは一緒に雪の中、バーまで行きました。小さなバーはおそらく8人から10人の客でもういっぱいでした。そこに私たち4人、つまりサンタの服を着てプレゼントで膨らんだ袋をかついだ私、びしょぬれの雪の王女様のドレスを来たアン(今や顔は蒼白)、そしてヒル夫妻が店に入ると、店の中にはちょっとしたざわめきが起こりました。私たちは家を立ち退かされたヒル一家のことをたずねました。

バーテンダーが言うには、「ああ、その家族なら知ってるよ。いや、どこから立ち退かされたかは知ってるが、行き先は全く知らないね。」

私は困り果て、これからどうしたら良いものかわからなくなってしまいました。

そのとき、しわだらけの老人が人をかき分けて私のそばに来るなり、言いました。「あんたの話は聞いたよ。先週、その男がトラックを運転しとるのを見た。しかし、そうじゃなあ、トラックに名前が書いてあったが、何じゃっただろう? 最近、物覚えが悪くてのう。」 老人はぶつぶつ独り言を言いながら、しばらく自分の脳みそを絞り出そうとしていました。すると、突然、目を見開いたのです。「そうだ! ハートだ! トラックの脇に、そう書いてあった! ハートじゃよ!」(これも架空の名称です)

ハート社の所在地は、なんともはや、リッチモンドの反対側にある、川沿いの倉庫が並ぶ区域でした。もう夜も遅くなりかけていたので、私はあせってきました。

「行こう。閉店にして一緒に探すよ。」 バーテンダーがそう言うと、皆一斉に、外に停めてあった車へと出て行きました。そこにあったのは、おんぼろのフォード1台、小型トラック1台、それと、かなり時代物らしいクライスラー1台で、皆がそれぞれ車に乗り込むと、私たちは町の反対側にあるハート社へと向かいました。

通りには雪が積もっています。このまま積もり続けたなら、立ち往生するかもしれません。雪で立ち往生したサンタなんて、聞いたことがありますか? とうとう、ハート社に到着です。敷地をぐるりと囲む高い金網のフェンスにあるゲートをどんどん叩くと、夜警の警備員が懐中電灯を持って現れました。

私が窮状を説明すると、警備員が答えました。「助けにはなれんなあ。パートの従業員は大勢いるからね。パートは一、二週間しか働かないんだよ。記録だってないに違いない。でも、一応事務所に行って、見てみようか。」

全員、車からどやどやと出て、事務所に群がりました。寒い車で待つよりはそこの方が暖かかったのです。

「これが従業員名簿だな。」 警備員はヒルと書いてあるカードを探しましたが、見つかりません。「社長に電話しよう。いい人で、ピーターズバーグに住んでる。クリスマスイブだけど、ちょっと私が邪魔したって、サンタクロースを助けるんだから気にしないだろう。」 ニヤッとしながら、そう言いました。

ピーターズバーグはリッチモンドから30−40キロありますが、社長はすぐに来ると言います。私たちは45分ほど待ちました。道路はツルツルで、移動は危険です。もう時間がありません。やっとグレーのキャデラックが到着し、人だかりのする事務所に社長が駆けつけました。私は彼にこの切羽詰まった状況を説明しました。

「ファイルを調べよう。」 社長が提案しましたが、最初から最後まで目を通した後、頭を振って言いました。「ヒルって名前はどこにもないな。」

社長が引き出しを閉じようとすると、何かが引っかかっています。もう一度引き出しを引っ張ってみると、引き出しが閉まらないのは、一枚の紙が引っかかっていたからだとわかりました。驚いたことに、それがメアリー・ルー・ヒルの父親のファイルで、廃棄されるはずだったのが、どういうわけかもう一枚のカードの下に滑り込んでいたのです。そこには新しい住所が書かれていました。

この時までには社長も私たちのプロジェクトに熱中して、自分の兄弟に電話していました。そして、その兄弟は奥さんと3人の子供を連れてきました。取り巻きは増える一方です。全員が、駐車していた5台の車、おんぼろのフォード、小型トラック、時代物のクライスラー、グレーのキャデラック、そして重役をしている兄弟の新車プリムスに乗り込みました。サンタにしては、奇妙なキャラバンです。吹雪はひどくなる一方です。従業員ファイルにあった住所まで、私たちは危険と隣り合わせにくねくねと運転しました。

嵐とエンジンの音以外にも、時折鐘の音が響きました。リッチモンドは鐘の多い市として知られており、鳴り響く鐘の音が動揺した私の心を静めました。しかし、果たして時間通りにプレゼントを届けられるのでしょうか?

ついに、その住所にたどり着きました。その家はかなり荒れ果て、じつに悲惨なところで、一方に傾いていました。窓ガラスの代わりには、冷たい風が入らないようにただの油紙が張ってあります。

雪の王女様は倒れる寸前でした。私の腕に捕まって、雪が深く積もった小道を何とか歩き、たわんだポーチにたどり着きました。他の皆も次々と車から出て、一塊になって見ています。皆、誰からともなく声を合わせてクリスマスキャロルを歌い出しました。サンタがドアをノックしたちょうどその時、クリスマスの日が訪れました。夜中の12時です。リッチモンド中の鐘がカーンカーンと、壮麗な音を立てて鳴り響いていました。

私の首に垂れた髪の毛は凍りつき、雪の王女様は身震いしました。しかし、それは寒さからではなく、その瞬間の興奮ゆえでした。私たちはかすんだ目でドアをじっと見つめて待ちました。そしてついに、ドアが広く開き、満面の笑みをたたえたメアリー・ルーの姿が現れました。それは驚きの笑みではなく、思っていた通りだったという笑みでした。彼女はただ、こう言ったのです。「サンタクロースさん、絶対来るってわかっていたわ!」

今では大人になっているはずのその少女の名前さえ私は知りませんが、彼女がこの物語を読まない限りは、もう何年も前に、雪の女王様と、パンパンになった袋をかついだサンタクロースを彼女の家の戸口まで導いた奇跡の連続について知ることはないでしょう。1

2012年11月アンカー掲載。朗読:サイモン・グレッグ。


1トム・カーリンは、ユタ州ソルトレイクシティ在住の人気ラジオパーソナリティで、シアター138を経営しています。毎年クリスマスに、この話をラジオで流しています。

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