音楽の森

8月 26, 2020

The Musical Woods
August 26, 2020

カーティス・ピーター・バン・ゴーダー

バイオリンが最も人間味のある楽器だと言われているのは、それが心の奥底にある感情を表現するという崇高な使命を担っているからです。その深く心に共鳴する響きで、魂に触れるかのように音を奏でます。映画で最も感動的な場面では、しばしばバイオリンやチェロが演奏され、その感動を際立たせてくれます。有名なバイオリニストのジョシュア・ベルは、「バイオリン曲を演奏するとき、あなたは語り手になる 」と言いました。

バイオリンをそれほども特別な楽器としているものは何でしょうか。これについてはストラディバリのようなバイオリン製作の黄金時代以来、300年以上にわたって多くの研究がなされてきました。バイオリンは、X線撮影、分析、測定され、100種類もの方法で研究されてきましたが、その謎は未だに残っています。測定不能なものがあるのです。

イタリア側のアルプスの高地に、音楽の森(Il Bosco Che Suona)[1] という森があって、ここで素晴らしいバイオリンが生まれています。最高の木は過酷な気候に耐えるのです。ロレンツォ・ペッレグリーニは、自らを森の番人、森の庭師と呼び、バイオリンの木がどう育つべきかを熱く語っています。「ゆっくり、ゆっくり、ゆっくり、です! この山の上では木々の成長がとても遅くて、時には成長がすっかり止まってしまうこともあります。強度を蓄えているんです。この山の上には樹齢千年の木もあるんですよ。信じられますか。水が多すぎてもいけません。木の芯は乾燥していないといけないんです。それがしっかりした最高の木材になります。見事に共鳴するんですよ!」

私たちは、乾燥した季節や、詩篇の作者がバカ(涙を流すという意味)の谷と呼んだ場所を通っているときに、このことを思い出すべきでしょう。熟練したルシアー[2] である主は、私たちが美しく響き、聴く人を喜びの涙に誘う楽器になるよう、準備してくださっているのかもしれません。

この詩篇の作者は、バカの谷を象徴的に用いて、人生の困難と悲哀の道を表現しています。この谷の名は、カラカラに乾燥した土地を表しています。この一帯は、「涙を流す(樹液をしたたらせる)木」が生えやすい場所なのです。人々は礼拝しにエルサレムに向かう際、この疲労困憊させられる、「涙を流す」場所を通過するのですが、その旅路も最後には報われます。

「その力があなたにあり、その心がシオンの大路にある人はさいわいです。彼らはバカの谷を通っても、そこを泉のある所とします。また前の雨は池をもってそこをおおいます。彼らは力から力に進み、シオンにおいて神々の神にまみえるでしょう。」[3]

それと同じように、この世で悲しみを経験した人は(経験しない人などいるでしょうか)、神への信仰に力を見出すことができます。主がちょうどそこにいらっしゃるので、バカの谷はまったく違う場所になります。忠実なクリスチャンが苦難の時を乗り越える旅は、一歩ずつ「力から力に進む」探検なのです。—gotquestions.org より

優れた音色を奏でる木を選ぶのは、それを専門にする人たちです。自らを「木を聞く人」と称する元森林警備隊員のマルチェロ・マズッキはこう語っています。「私は木を観察し、触れ、時には抱きしめます。よく見ると、木はその人生、トラウマ、喜び、すべてを話してくれます。木はとても謙虚な生物なのです。」 彼は、枝が多すぎたり、きずがあるものは無視します。そしてついに、完璧と思えるものが見つかるのです。「見てください、完璧にまっすぐ伸びている。まるで円柱のようです。下の方には枝がない。私には、この中にバイオリンが閉じ込められているのが分かります。」

マズッキはボーラーと呼ばれる手動式のドリルを取り出して、樹皮の上から、コルク栓抜きのようにそれをひねっていきます。次の年輪に当たるたびにボーラーが出すコンコンという音を注意深く聞くのです。そうやって、コア試料を採取し、注意深く観察した後に、「マグニフィコ(イタリア語で「素晴らしい」の意)!」と宣言します。

イエスは、私たちがイエスを選んだのではなく、イエスご自身が私たちを選んだと言われます。[4] しかし、完璧なバイオリンの木とは異なり、イエスは、優れているから、完璧だからという理由で人を選ぶのではありません。ノアやアブラハムのような聖書の英雄、あるいは12弟子などを振り返ってみると、私たちと同じように欠点だらけであるのがわかります。それは、主がご自分に関わることを成し遂げるために力を尽くされるからに違いありません。[5] 主は私たち一人ひとりの中にある可能性や、自分では時に気づかない「マグニフィコ」な何かを見ておられるに違いありません。

マズッキは伐採の前に、次世代のバイオリンの材料となるトウヒの若木が近くに育っていることを確認します。マズッキは言います。「私はこれまで100万本もの木を伐採してきました。でも、その代わりに1億本以上の木が育っています。」

成木を取り除くことで、より多くの日光が降り注ぐようになり、若木が成熟できます。「木が倒れると同時に、影で生まれ苦しんでいた木々が、より早く成長できるようになるのです」と、森林局の責任者は言います。そして、ある木は何世紀も先のマエストロが奏でる楽器となる運命にあります。木は死ぬけれど、新しい姿で生き続けるのです。

これがルシアーのやり方です。彼らは未来へのビジョンを持っています。私たちも、この森の番人たちのように、自分たちが後世に残すものや次の世代に目を向けなければなりません。そして、すべての条件が整ったその日に、木は板状に切り出され、乾燥させられ…10年以上熟成されて、私たちがバイオリンと呼ぶ魅惑的な楽器へと形を変えていきます。[6]

次にバイオリンの心に響く旋律を聞くときには、そこに至るまでのすべての段階を思い出してください。それと同じように、おそらくあなたは現在作り上げられている途中なのであり、今経験していることは、幕が開いて、主があなたの弦に弓を置き、あなたの物語を歌わせる魔法の瞬間のための準備に過ぎないのです。


1 この森に関する短編ドキュメンタリー動画:https://www.youtube.com/watch?v=-rXrCcYANv0

2 ルシアーとは、ネックと共鳴胴を持つ弦楽器の製作と修理を行う職人。

3 詩篇 84:5–7.

4 参照:ヨハネ 15:16.

5 詩篇 138:8. 新改訳第3版「主は私にかかわるすべてのことを、成し遂げてくださいます。」

6 バイオリン用の木材の乾燥やシーズニングの期間は、大きさや厚さにもよりますが、一般的に10年以上と言われています。50年ものの木材はさらに優れています。(http://www.gussetviolins.com/wood.htm

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