12月 20, 2021
マリヤがエリサベツを訪問した数ヶ月後、マリヤとヨセフはベツレヘムへと旅立ちました。旅の理由は、カエサル・アウグストゥスが人口調査を命じたからであるとされており、ヨセフはダビデ王の家系であり血筋であるゆえに、先祖の故郷であるベツレヘムまで行かなければならなかったのです。
ルカは、ヨセフが住民登録をするためにガリラヤ地方のナザレを発って、エルサレムから10キロほど離れたところにあるユダヤのベツレヘムという町に向かった様子や、マリヤも同行したことを書き表しています。二人が「ベツレヘムにいるうちに、マリアは月が満ちて、初めての子を産み、布にくるんで飼い葉桶に寝かせた。宿屋には彼らの泊まる場所がなかったからである」とあります。[1]
さて、ベツレヘムの近くの野原では、羊飼いたちが羊の番をしていました。「すると主の御使が現れ、主の栄光が彼らをめぐり照したので、彼らは非常に恐れた。御使は言った、『恐れるな。見よ、すべての民に与えられる大きな喜びを、あなたがたに伝える。きょうダビデの町に、あなたがたのために救主がお生れになった。このかたこそ主なるキリストである。あなたがたは、幼な子が布にくるまって飼葉おけの中に寝かしてあるのを見るであろう。それが、あなたがたに与えられるしるしである。』」[2]
御使いが現れて、神がイエスをこの世にもたらすことによって何をなさっていたかを告げ知らせたのは、これで3度目です。最初は神殿でザカリヤに現れ、次にマリヤに、そして今度は羊飼いたちに現れました。この場合、主の栄光、つまり明るい光という形となった神の輝きが羊飼いたちを照らし、それから、その他の時と同様に御使いが現れて、まずそれを見た人が恐れ、次に恐れるなと告げられています。
御使いは、すべての民に与えられる大きな喜びを伝えています。それは、「地のすべてのやから[民族・氏族]は、あなたによって祝福される」[3] という、アブラハムへの約束と同じです。御使いは羊飼いたちに、ダビデの町ベツレヘムに幼子が生まれたと述べることで、幼子とダビデ王を関連づけ、また、彼がメシア(これがキリストという言葉の意味です)であると宣言しています。[4]
御使いの託宣は、幼子の誕生と、その幼子が誰であり、どのようなことをするかを予告するイザヤの次の言葉に通じるものがあります。「ひとりのみどりごがわれわれのために生れた、ひとりの男の子がわれわれに与えられた。まつりごとはその肩にあり、その名は、『霊妙なる議士、大能の神、とこしえの父、平和の君』ととなえられる。そのまつりごとと平和とは、増し加わって限りなく、ダビデの位に座して、その国を治め、今より後、とこしえに公平と正義とをもってこれを立て、これを保たれる。」 [5]
御使の知らせが終わると、「たちまち、おびただしい天の軍勢が現れ、御使と一緒になって神をさんびして言った、『いと高きところでは、神に栄光があるように、地の上では、み心にかなう人々に平和があるように。』」[6]
羊飼いに与えられたしるしは、「幼な子が布にくるまって飼葉おけの中に寝かしてあるのを見る」ことでした。[7] 幼子を見つけると、彼らはそのことを人々に伝え、それを聞いた人は皆、不思議に思い、驚きました。そして、マリヤはこれらの事を心に留めて、思いめぐらしていました。 [8]
マリヤとヨセフは御使いが命じたことを忠実に守って、「受胎のまえに御使が告げたとおり」、生まれたばかりの赤ん坊をイエスと名付けました。[9] 当時のユダヤ人の慣習にしたがい、ヨセフとマリヤは生後8日目に息子に割礼をし、さらに33日後にはモーセの律法に従ってマリヤの清めの儀式をしています。[10] これらの行為から、マリヤとヨセフが信心深いユダヤ人であって、神のいましめに従い、イエスに信仰の道を教えた人たちであることがうかがい知れます。
ヨセフとマリヤは神殿でシメオンに会いました。彼については、このように書かれています。「正しい信仰深い人で、イスラエルの慰められるのを待ち望んでいた。…そして主のつかわす救主に会うまでは死ぬことはないと、聖霊の示しを受けていた。…すると律法に定めてあることを行うため、両親もその子イエスを連れてはいってきたので、シメオンは幼な子を腕に抱き、神をほめたたえ…。」 [11]
シメオンの祈りは、ルカの福音書の導入部に記された、3番目の賛歌です。シメオンはこう述べています。「わたしの目が今あなたの救を見たのですから。この救はあなたが万民のまえにお備えになったもので、異邦人を照す啓示の光、み民イスラエルの栄光であります。」[12] 彼の言葉は、神の救いが人類全体のため、すべての人のためであることを断言しています。シメオンがイエスを光と言ったのは、ザカリヤが先の賛歌で、「日の光が上からわたしたちに臨み、暗黒と死の陰とに住む者を照し、わたしたちの足を平和の道へ導くであろう」と預言した部分と合致しています。[13] ヨセフとマリヤは、シメオンが自分たちの息子に語った言葉を聞いて、驚き、不思議に思いました。[14]
ヨセフとマリヤはまだ神殿の中にいる内に、アンナという84才の女預言者にも出会います。アンナが語った言葉はルカの福音書にははっきりと記録されていませんが、ルカはこの男性と女性、その両方がイエスについて預言していることを書いています。[15] ルカの福音書と、ルカが書いた使徒行伝の随所に見られるように、彼はしばしば、イエスの物語や初代教会の物語を語る上で、女性を重要な役割として描いています。
イエスの誕生に関してルカが書いた話は、この神殿での場面で終わっていますが、マタイはイエスの誕生について、ルカ書には記録されていないことを描写しています。例えば、次のようなものです。「東からきた博士たちがエルサレムに着いて言った、『ユダヤ人の王としてお生れになったかたは、どこにおられますか。わたしたちは東の方でその星を見たので、そのかたを拝みにきました。』」[16]
博士たちがどこから来たのか、はっきりと分かりませんが、それよりもイスラエルの外から来たということ自体の方が重要です。マタイは、イエスの誕生によって異邦人たちが神の御子の光に引き寄せられたという事実を強調することで、ルカと同様、神が新しいことをなさっているのを示したのです。[17]
異邦人である博士(賢者)たちが、新しく生まれた「ユダヤ人の王」に敬意を表するために来た一方で、マタイは、当時のユダヤの王や、大祭司、律法学者らは、新しい王が生まれたことを全く知らなかったと指摘しています。ヘロデ王は、博士らが新しい王を探しに来たと聞いて、心を悩ませました。それももっともでしょう。これはヘロデが死ぬ少し前のことで、誰が次の王になるかで息子らの間に意見の不一致があった頃でした。
この知らせを聞いて、ヘロデは祭司長や律法学者を集めて、メシアがどこで生まれるのかを尋ねました。それから、ひそかに博士らを呼んで、星の現れたのを最初に見たのはいつなのかと聞いたのです。そしてヘロデは博士らに、行って幼子を見つけ、その場所を正確に教えてくれ、そうすれば自分も新しい王を拝みに行けるから、と告げました。
ベツレヘムに行った賢者らは、マリヤ、ヨセフ、イエスが滞在していた家を見つけました。「そして、家にはいって、母マリヤのそばにいる幼な子に会い、ひれ伏して拝み、また、宝の箱をあけて、黄金・乳香・没薬などの贈り物をささげた。」[18] そこには博士が何人いたかは書かれていません。言い伝えによれば、乳香、黄金、没薬という3つの贈り物からして、3人いたとされています。
賢者らは、「夢でヘロデのところに帰るなとのみ告げを受けたので、他の道をとおって自分の国へ帰って行」 きました。[19] ヨセフにも夢で天使が現れて、こう言いました。「立って、幼な子とその母を連れて、エジプトに逃げなさい。そして、あなたに知らせるまで、そこにとどまっていなさい。ヘロデが幼な子を捜し出して、殺そうとしている。」[20] ヨセフは家族とともに、夜に紛れてそこを去り、エジプトに向かいました。そして、ヘロデの死まで、そこに留まったのです。おそらく、博士たちからの贈り物を使って、旅費やそこにいる間の生活費にあてたのでしょう。
ヘロデの死後、再びヨセフの夢に天使が現れて、指示を与えます。今度は、家族を連れてイスラエルに戻るようにと告げられ、ヨセフはその通りにしました。そこに戻って、アケラオ(アルケラオス)がユダヤを治めていることを知ったとき、ヨセフはまたしても夢を見て、ユダヤに行ってはいけないと警告されます。それで、彼はナザレに行ってそこで家族共々暮らしました。
ルカとマタイが語るイエスの誕生物語も結末に近付くと、人類のあがないのためにメシアを送るという神の約束の成就が繰り広げられ始めたことがわかります。神の約束はこの世界において成就されることになっていたので、誕生物語で示されているように、神はこの世界の時間と物質の次元に入ることを選ばれました。神はその御子を二人の忠実な信者に任せ、御子を殺そうとする者どもから御子を守り、メシア到来についての旧約聖書の預言を成就し、約束された救いと回復に向けて土台を作られたのです。
神がこの世に来られ、自らの死と復活によって、人類とご自身との和解を果すという目的のために、被造物と共に生きることをいとわれなかったというのは、人類の歴史上、最も意義深い出来事です。福音書は、イエスの生涯がいかにして、その誕生から死、そしてその後に至るまで、神の約束を成就したかを告げています。また、私たちが神の子どもとなるのを可能にすることによって、神が人類に対して持っておられる大いなる愛を示されたことも告げているのです。
初版は2014年12月 2021年12月に改訂・再版
朗読:ジョン・ローレンス
1 ルカ 2:6–7.〈新共同訳〉
2 ルカ 2:9–12.
3 創世記 12:3.
4 ヨハネ 1:41.
5 イザヤ 9:6–7.
6 ルカ 2:13–14.
7 ルカ 2:12.
8 ルカ 2:18–19.
9 ルカ 2:21.
10 レビ 12:2–6.
11 ルカ 2:25–28.
12 ルカ 2:30–32.
13 ルカ 1:78–79.
14 ルカ 2:33.
15 ルカ 2:36–38.
16 マタイ 2:1–2.
17 Raymond E. Brown,The Birth of the Messiah (New York: Doubleday, 1993), 459.
18 マタイ 2:11.
19 マタイ 2:12.
20 マタイ 2:13.
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